飛び出した山女
2025年4月4日 小菅川で私の大好きな流れに一年ぶりに入り、三年ぶりにやっと石垣堰堤まで釣り上った。 山女はたった一匹だったが、浮いた毛鉤に飛びついたので興奮した。
水量も戻ってきただろうから、小菅川の最上流部、先日途中まで行った続きを釣ろうと思った。 私としてはとっても早い時間に家を出たのに、一番堰堤には車があった。 不安になりながら上流へ向かうと、なんと入渓地点どころか駐車場にも車はない。 これは期待できるとニタニタしながら目的地に向かう。
いた! 目的地には準備中の釣り人が三人もいるではないか。 さてどうしたものかと、リーダ格の人と話をすると、二人が餌釣り、一人はテンカラで、奥へずっと入っていくという。 一緒に行くかと誘われたが、三人でも難しいと思うのに四人では釣りにはならないと思い、下流へ向かうことにした。
小菅川の景色で最も好きな流れ、昔子供たちが遊んでいた冒険の道から釣ることにする。 恐ろしく壊れた路は、すでに路ではなくフェルトの靴底で下りるのは恐怖である。 一年ぶりに竿を出す場所は、最初から山女が飛び出しそうな流れである。 水量も戻ってきていて、そろそろ山女が出ても良さそうに見える。
ここもあそこも静かな水面で、出てこい出てこいと毛鉤を落すものの、まるで反応がない。 赤沢出合いを過ぎても、釜淵でも魚影さえ見えない。 いよいよここから先は三年ぶりとなる流れである。 お助けロープがあっても釜淵の上に向かうのは恐怖であり、その先を古びたロープだけを頼りに下りるのは危険この上ない。 何とか立って安堵する。
静かな大きな淵は青く美しい。 山女は出ない。 矢下沢出合い辺りの水路のような流れは浅くなっていても美しい。 山女は出ない。 記憶にない倒木が淵に倒れている。 堰堤が見えると、山女の棲家である大きな淵であるが、今はもう山女は棲家を出てしまったか。 堰堤を越えただけで疲れる。 まだ一匹の山女も岩魚も見ていないのである。
どこの堰堤もその上は瀬となるが、石があればいるかもしれない。
浅い流れの中には多少深くなったところもあり、そんなところを流すと山女じゃなくて岩魚が出てきた。 それも真っ黒な岩魚で、これは深場の石の下にいたものだと思うのだが、少し移動しないと深場はない。 まぁ、石の下に長らくとどまっていたかもしれないが、流れに岩魚が出ているということは、ここからが楽しみである。
浅く、危険な流れはなく、陸を歩きながら竿を振る。 白泡の下の緩い流れ、しかも流れが合わさるところで獲物を待っている。 場所が小さければ小さな岩魚、少し大きくなれば岩魚も大きくなる。 しかし、いくら山女がいるはずの流れに振り込んでも、岩魚が出てきてしまう。 一体どうしたのだろうか。
ここには絶対山女がいる・・・やっと出た~ ん~岩魚が出てきてしまう。 とても静かな水面で、流れもゆったりとしている。 この流れの中心で山女が獲物を待っているはずだった。 山女は流れで反応しなくても、毛鉤が横に外れると岩魚が駆けつけてくるのである。 山女はいないのだろうか。
石が積み上がった流れの真ん中には大きな木があったが、途中で折れており、しかも淵だった場所には他の大木が倒れ込んでいる。 ならばここを丹念に、と思った場所は幾筋もの流れ込みがあり、如何にも岩魚がいそうである。 白泡と白泡の間を何度か流すうちに二匹の岩魚を引き出した。 一匹は22cmで痩せてはいるが黒くて美しい。
今度こそ山女がいる。 毛鉤を交換し浮かせて流すことにした。 私の毛鉤はニ三度は浮かせて流せるのであるが、その後は絶対に浮かないのだ。 その二回目にジャブッと飛び出たものがいた。 ビックリドッキリ慌てて竿を立てる。 なんと、やっと出てくれた山女21cmであった。 その後、よく切れなかったものだとドキドキする。
時間切れが近くなってくると、釣りも急ぎ足になり、丹念な流しはできなくなり、どんどん進む、陸を歩く。 三年ぶりに石垣堰堤にやってきた。 この上から釣ること数多くても、堰堤下の淵が久しぶりということである。 最後に見たときよりも石垣が崩れており、そのうち低い堰堤になるのじゃないかと心配になる。 波のないところで、毛鉤を引っ手繰ったのは21cmの岩魚である。
山女が水面から飛び出したのには興奮した。 しかもこの一回だけ、たった一匹の山女で、あとはすべて岩魚であったこともある。 久しぶりに興奮した飛び出しで、もうすぐ岩魚もこうなるに違いないと心待ちにする。 雄滝駐車場に上がりながら、明日はどこへ行こうかとニヤ付く。
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